合成洗剤

【合成洗剤】昭和62年(1987年)

 昭和62年12月、徳島県でフロ掃除に「塩素系洗剤と酸性洗剤を一緒に使い」、54歳の主婦が塩素ガスによって死亡する事故が起きた。2種類の合成洗剤を混ぜ合わせたため塩素ガスが発生したのだった。塩素ガスは戦争で毒ガスとして用いられたことがあるほどで、市販の洗剤で猛毒が発生したのだった。日本では初めての死亡事故で、厚生省や業界はこの事故を重視し、洗剤の容器には「併用不可」の表示を張るなどの改善策を設けた。

 しかし平成元年1月29日、長野市内でも、塩素系洗剤と酸性洗剤を一緒にふろ場を掃除に使っていた42歳の主婦が死亡する事件がおきた。「中毒情報センター」は、死亡に至らないまでも入院などの例は少なくても1年間に19件あったと報告し、この事件は世間に大きなショックを与えた。

 通常の洗剤は中性であるが、強力な汚れを落とすためには強力な洗剤が必要であった。漂白剤やカビ取り剤、排水パイプ用洗剤は塩素系で、トイレ用洗剤には酸性タイプとアルカリタイプがあった。そのためトイレやふろの掃除で塩素系と酸性系の家庭用洗剤を併用すると塩素ガスが発生し、ガスを吸い込んだ主婦が犠牲になった。塩素系漂白剤の主成分は次亜塩素酸ナトリウムで、この次亜塩素酸ナトリウムが酸性になると塩素ガスを発生したのだった。軽度の場合は、涙やが出たり、吐き気、目やのどの痛みなどであるが、重症になると失明、さらに死亡に至る。合成洗剤の危険性が大きくクローズアップされた。

 塩素系洗剤と酸性洗剤を一緒に使うと有毒な塩素ガスが発生すると容器に書いてあったが、意識して見ない限り目立たないうえ、使用者にとってどの程度危険なのかわからなかった。また消費者のほとんどは注意書きなどを読まず危険性の認識もなかった。

 日常生活の中で危険なものを売っている以上、小学生でもわかるようにするのが最低条件であった。通産省は表示の見直しを行い、平成2年3月からはすべての製品の表ラベルに、「まぜるな危険」の赤字の大書表示を義務付けた。もちろん混ぜるだけでなく、前後して使用した場合にも同じような危険性があった。