ブリューゲル

 ピーテル・ブリューゲル

( 1525-10年頃 〜1569年)は16世紀に活躍したフランドル(現在のベルギー)出身の画家であり素描家、銅板下絵画家でもある。同名の長男と区別するため「ブリューゲル(父)」と表記されることが多い。

 デューラーと並び北方ルネサンスの代表であり、近代絵画の原点を創った。
 農民を題材にした作品を数多く描いていることから「農民ブリューゲル」と呼ばれでいるが、「農民」という言葉はブリューゲルには相応くない。彼は見識豊かな教養人であった。

 数年間フランス、イタリアを旅して、修行を積んだが、古典的な理想の姿を追求する画風にイタリア的なところはない。彼の作品には同じ頃すでに伝説の巨匠であったヒエロニムス・ボッシュの空想力、パティニールの敬虔で大きな風景の影響が強く、北方の伝統が色濃い。


バベルの塔
1563年 114×155cm | 油彩・板 |
ウィーン美術史美術館

 バベルの塔は旧約聖書に描かれている伝説の塔のことで、ノアの洪水の後、ノアの子孫ニムロデ王が自分の力を誇示せんが為、天にも届くような高い塔を築き始めた。これを見た神が、人間たちの傲慢さに怒り、人々の言葉を混乱させ建設を中止させた。神が人々の言葉を変えたことから、世界中の民族による言語が誕生したとされている。

 塔の建設場面を描いた本作は、内部まで細密に描かれ、建設途中の塔の形態、色彩、人物・風景描写など各部分において秀逸の出来栄えを示している。画面の手前にいるのは計画を推し進めようとするニムロデ王の一行。塔の周りでアリのように小さく見えるのが塔で働く人々で、その比較によって塔の大きさがわかる。ダイナミックで迫力のある作品である。

 ブリューゲルの絵として有名であるばかりでなく、美術史上すべての絵画のなかで最も有名な絵画のひとつと言える。

雪中の狩人
1565年 117×162cm | Oil on panel |
ウィーン美術史美術館

 季節ごとの農民の生活を克明に描いた連作の6点の中の1点。友人である金融商人ヨンゲリンクの邸宅の装飾画として制作された。収穫のない冬期におこなう狩猟の風景を描いた作品。ネーデルランドの大自然に繰り広げられる農民の営みを冬の季節感に満ちた情景が描かれている。連作月暦画の中でも特に秀逸の出来栄えを見せていて、農民画家ピーテル・ブリューゲルの特徴が良く示された最高傑作のひとつとして知られている。

農民の婚宴
1568年 114×168cm | Oil on panel |
ウィーン美術史美術館

 「農民画家」と呼ばれたブリューゲルが、農村の素朴な結婚式の情景を描いており、当時の農民の実態を描いた作品として秀逸なものである。キリスト教の主題である「カナの婚宴」から着想を得たとされ、構図からも類似する点が指摘されている。また本作は、完成した後に、何らかの理由から下部が切断されており、本来はそこに署名、年記などが記されていたと考えられている。
 この喜ばしく進行する婚宴の主役のである花嫁の小さな姿が特徴的である。花嫁は花冠をかぶり、納屋の奥、緑の幕の前に座っている。神妙な表情をしているが、花嫁は話すことも、食べることも許されていない習慣を示している。
 画家は生涯において婚宴を題材に数点の作品を手がけているが、本作では花嫁は判別されるが、もう一人の主役である花婿が判別できない。フランドル地方の習慣では花婿は昼は姿を見せない習慣になっているので、画中には元々描かれていないのである。
 その他、喜ばしい婚宴の最中、部屋の隅で密かに話をする修道士と村の領主が描かれており、規律や戒律を重んじる両者にとって、このような宴は推奨されるものではなかったことを暗示している。