ミロのビーナス

 ミロのビーナスは古代ギリシアの彫刻で、パリのルーヴル美術館で展示されている。高さ203cmで材質は大理石である。発見当時は碑文が刻まれた台座があったが、ルーヴル美術館に持ち込まれる際に紛失している。1821年に描かれたスケッチには、失われる前の台座が描かれている。
 ミロのビーナスは、1820年、オスマン帝国統治下のギリシャのミロス島で小作農民によって発見された。小作農民は官吏に見つからないようにビーナス像を隠したが、トルコ人の官吏に発見され没収された。フランス海軍提督がこの像の存在をフランス大使に伝え、フランス大使がトルコ政府から買い上げルイ18世に献上した。作者は紀元前130年頃に活動していた彫刻家アレクサンドロスとされているが明確ではない。
 欠けた腕の部分がどうなっていたのか。多くの芸術家や科学者が失われた腕を復元しようとしたが、定説と呼べるものはない。林檎を手にしているという俗説が伝わっている。

理想のプロポーション

 古代ギリシャの肉体表現は、神と同じ姿で作られた人間の肉体こそが最高の美の基準になるという考えに基づいている。この肉体賛美から幾何学を基礎にした比率理論を用いて人間の理想的プロポーションが決められた。

 人間の理想的プロポーションを導き出そうとして、発見されたのが黄金比の法則である。この黄金比は、ギリシア時代以降、美しいプロポーションの理論的法則として尊重され、その代表がミロのビーナスである。

 ミロのビーナスは、へそから足までが身長の8分の5、頭部からへそまでが全体の8分の3である。さらに頭部と身長の比が1:8で、8頭身美人はこのようにして生まれた。
 さらに二つの乳首とへそを結ぶと正三角形になり、胸部と腰部の横の長さは1:1.6である。

 この黄金比に加え、それまでの直立した人体に比べミロのビーナスは。より自然な体重の掛け方、肉体のねじれを特徴としている。

黄金比

 最もバランスが整っていて、美しいとされる長方形、すなわち縦横の比率が1対1.618(5:8)を黄金比という。

 縦横比が黄金比の長方形から短辺を一辺とする正方形を取り除くと、残る長方形も黄金比の長方形となる。また、長方形の縦横比だけでなく、美しい線分の比率としても使われる。

 1対1.618の1.618は左記計算式で示すように、πと同じように小数点以下が永遠に続く数値である。パスカルの原理と同様に、美を数式で表すことは、美は宇宙の原則によって成り立っていることであり、美イコール宇宙の原則に従っていることをギリシャ哲学が解明したのである。

1. 長方形ABCDから、辺ABを1辺とする正方形を取り除くと、残った長方形CDEFも黄金比の長方形になる。

2. 長方形CDEFから辺DEを一辺とする正方形を取り除くと、残った長方形CGHFも黄金比の長方形になる。同様の作業で、無限に黄金比の長方形が現れる。

 この黄金比1対1.618は多くの絵画に用いられており、身近なものでは名刺、カードなども黄金比が用いられている。下記にレオナルドのモナリザ、人体図を示してあるが、レオナルドもこの黄金比を知っていたと思われる。