やせたソクラテス

【やせたソクラテス】昭和39年(1964年)

 昭和39年3月28日、東京大学の卒業式で2000人の卒業生を前に大河内一男総長が式辞で、「太ったブタよりも、やせたソクラテスになれ」と述べ、その日の各紙夕刊で大きく取り上げられた。

 ブタは私利私欲に走る者を意味し、ソクラテスは幸福、正義、人間の生き方を追及し、その信念ゆえに処刑されたギリシャの哲学者である。昭和39年は60年安保闘争が終わり、高度経済成長の時期であった。総長の言葉は経済優先の考えを警告したのだった。

 やせたソクラテスは有名な言葉となったが、実際には、大河内総長は式辞で原稿を読み飛ばし、この言葉を述べていない。この報道は誤報であったが、あらかじめ用意された予定原稿が報道各社に渡されていたため記事になった。

 この「太ったブタよりも、やせたソクラテスになれ」は大河内総長の創作した言葉ではない。「太ったブタになるより、やせたソクラテスになりたい」というJ・S・ミルの言葉の引用で、ちなみにソクラテスは実際には太っていたらしい。また、「やせたブタよりも、太ったソクラテスになれ」でどこが悪いのか、などの議論があった。大河内総長は今の学生はよく勉強をするが、必要な本しか読まない。勉強に遊びがないと指摘していた。