鉄の肺のクリスマスプレゼント

鉄の肺のクリスマスプレゼント】昭和29年(1954年)

 昭和29年12月19日、米軍・大津病院の下士官クラブ員30人が「鉄の肺」を京都市に寄付、中央市立病院に納入された。米軍下士官たちが「鉄の肺」を本国から買い付け、クリスマスプレゼントとして贈ってきたのだった。「鉄の肺」は呼吸筋麻痺で自ら呼吸ができなくなった患者に用いる人工呼吸器で、当時流行していた小児麻痺患者に用いられた。

 鉄の肺は、患者の首から下を気密した鉄のタンクに入れ、タンクの気圧をポンプで上下させ、空気の圧力で呼吸をさせる装置である。すなわちタンク内を陰圧にすると胸郭が広がり吸気となり、大気圧に戻すと胸郭の弾性から息をはき出す仕組みであった。「鉄の肺」は昭和27年に東京第1病院で使用されたのが日本初例で、8年後の昭和35年の時点でも、日本には数台だけだった。鉄の肺があれば助かった呼吸不全の患者の多くは、その恩恵を受けることができなかった。

 現在はもちろん鉄の肺は使われていない。今では骨董品の部類で、古い写真でしか見ることはできない。現在の人工呼吸器は気管内挿管と呼ばれるもので、口からプラスチックの管を気管内に挿入し、その管に圧を加えて空気を送り込み、吸気、呼気を行わせるものである。