芸能界大麻汚染事件

【芸能界大麻汚染事件】昭和53年 (1978年)

 昭和52年8月10日、映画「人間の証明」に準主役で出演していたジョー山中(30)が大麻取締法違反容疑で佐世保署に逮捕された。さらに9月10日、フォーク歌手の井上陽水(29)も警視庁に逮捕され、週刊誌には「井上陽水が事実上の引退」と見出しが出た。9月29日には、タレントの研ナオコ(24)が取り調べを受け、「大麻を吸うと音に敏感になり、リラックスした気分になる」と自供した。さらに内藤やす子、上田正樹、美川憲一、内田裕也、にしきのあきら、桑名正博と芸能人が次々と逮捕されていった。

 逮捕への社会的影響は大きく、テレビ出演、CM、ワンマンショー、レコード発売などが中止された。また歌手や俳優だけでなく、プロデューサーやバンドマンも逮捕され、そのためNHKや民放各局では番組変更でてんやわんやとなった。

 大麻(マリファナ)は中央アジア原産の植物で、古くは繊維用として栽培されていた。大麻は葉などをあぶってその煙を吸うと、酩酊(めいてい)感、陶酔感、幻覚作用などをもたらす。大麻を乱用すれば、妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こすが、大麻はオランダでは条件付きながら合法で、それほどの害はないとされている。アルコールを飲んでの事故、覚せい剤による殺人などが報道されるが、大麻を吸っての事件はほとんど見られていない。日本では毎年1000人ぐらいが大麻取締法違反で逮捕される。これも大麻取締法という法律があるためで、雑誌などでは大麻無害説が展開されるほどであった。

 判決は執行猶予がついた軽いものだった。ジョー山中は懲役2年執行猶予3年、井上陽水は懲役8カ月執行猶予2年、上田正樹は懲役8カ月の執行猶予2年、研ナオコ、内藤やす子、美川憲一、内田裕也、にしきのあきら、桑名正博は起訴猶予となった。当時はベトナム帰還兵やヒッピーが大麻を吸っており、罪悪感は少なかった。また芸能界の大麻汚染の背景には、外国のロック・グループが大麻を吸っており、大麻を吸うことが酒と同じ一種のファッションと捉えていたからで、逮捕された歌手たちは大麻を吸ったことよりも、逮捕されたことに驚いたことであろう。

 この年、警察が芸能人を大量に摘発したのは、覚せい剤が増え検挙者が前年度の6倍に増えたからである。大麻と覚せい剤は明らかに違っているが、芸能人の逮捕によって覚せい剤の抑止効果を狙ったのである。大麻で大騒ぎとなったが、熱が冷めるとほとんどの関係者は何もなかったように活動を続けた。

 この騒動が忘れられようとしていた昭和58年4月18日、俳優の萩原健一(32)が東京都渋谷区のマンションに大麻樹脂12グラムを隠していたことで逮捕され、東京地裁は萩原に「懲役1年執行猶予3年」の判決を言い渡した。